中国西域への旅 四川省:丹巴(ロンダク) 中路郷へ
四川省:丹巴(ロンダク)で最初の朝。改築工事中だという話の通り、朝から宿の中で工事の音がうるさい。女性がコンクリートの塊をいくつも詰めた籠を背負って階段を下りている。
ここ丹巴には昨日訪れた梭坡(スオポ)郷:莫洛村の他に、甲居蔵寨、中路郷という2ヶ所の見どころがあるそうで宿の女性におすすめを聞いてみる。甲居蔵寨の方が有名なようだが、彼女は断然中路郷を勧めるとのことでそのアドバイスに従ってみる。また今後の日程について、現在当局が外国人の立ち入りを厳しく制限している色達(スルタ):ラルンガルゴンパ行きが果たして可能かどうか聞いてみたところ、今は危険すぎると強く制止された。ここ丹巴は色達に近い町のひとつで、ここで最新情報を確認しておきたかったのだが、やはり今回は諦めざるを得ないようだ。強行突破を図ってもこちらは国外退去程度で済むかもしれないが、無関係の地元の人を巻き込む恐れがあるかもしれない。
宿の隣の食堂で朝食を済ますとすぐ乗り合いタクシーが来て中路郷へ向けて出発。15元(約230円)。急な山道をぐんぐん登っていき絶景の連続である。30分程度で2300mほどの標高の村に到着した。
ここは巨大な山に取り囲まれた、まさに天空の集落とでも呼ぶべき場所だ。なんと不思議な景色だろうか。
ここにも昨日の梭坡(スオポ)郷:莫洛村と同じような石積みの塔:古石碉楼がいくつも立っている。
北側の峰々は雪をかぶっており、低い山では木々に雪が積もっているのがわかる。あまりに巨大な山肌に畏れの気持ちを感じると同時に、山の懐に「抱かれている」という感覚にもなる。
斜面を登ったかなり上のほうまで集落は続いている。前に乗り合いタクシーが停まっている家が何軒もあり、多くの住民がドライバーとして働いているようだ。籠を背負った女性の一群が坂をゆっくり登っていく。明らかに外国人とわかる自分を見て、笑いながらみんなで口々に何か言っている。
バイクに二人乗りの若い男が自分を追い越していく。まもなく脇道から別の男が飛び出してきて山の方に向かって何か合図のような甲高い声で叫んでいる。ヤクでも呼んでいるのかと思ったら先ほどのバイクが戻ってきて彼を乗せて3人で走り去った。
果物か何かを売り歩く女性が名前を連呼しながら、ずっと上の集落まで荷を背負って登っていく。集落の最上部近くまで行くとさすがに車も見かけなくなる。ここで暮らすのは大変だろうと思う。
午後になると、山の雪も消えて暖かくなってきた。雪解け水が小さな川となって道の脇をチョロチョロと流れていく。
集落上部への道がよくわからず右往左往していると近所の住人が出てきて遠くから大声で方向を教えてくれる。登れば登るほど、これが道だとはわからないようなところを歩く箇所が増えてくる。日本で言う地蔵や祠のようなもの、水流で回る全自動マニ車などが道なき道の脇に設置されている。全自動マニ車の鳴らす鐘の音がチリンチリンと響く。標高2600mぐらいまで上がってきたが、ここが家のある場所としては最高所に近い。どこかの家から子供の声が聞こえるが、ここからでは学校へ通うのも大変だろう。どの家の軒先にも大量のトウモロコシが干されている。集落の最上部にはゴンパらしきもの(の跡地?)がある。どの家もチベット式の立派な建物である。
16時を過ぎてから宿探しを始める。標高の高い場所でいくつか宿を見かけたがいずれも休業中のようで、途中であった村人に集落の下部まで降りるよう勧められる。ようやく見つけた云上蔵家 度假庭院(一泊100元2食付き)で交渉するも一切値引きしてもらえず。他に営業中の宿がなさそうだったため、やむなくここに泊まることにする。
夕食までの時間、周辺を散策していると今朝すれ違った籠を背負った女性の一群と再会する。すぐそばが自分の家だから泊まっていけと言われる。「日本人か?」と聞かれたところを見ると、ここを訪れる日本人は比較的多いのだろう。
夕食は宿の主人一家3人と一緒に食べる。ほうれん草、じゃがいも、トウモロコシなど久しぶりに野菜が豊富な食卓だ。大量に食べるよう勧められるがとても食べ切れない。電気の状態が良くなく、ランプの灯りが頼りだ。部屋の壁には共産党党員の証が貼られている。
食事の最中は主人と2人、自家製の酒を飲む。酒の入ったかめの中には唐辛子のようなものが漬けられていて、まずくはないがかなり強い酒だ。どちらかが少しでも飲むときはもう一人もお付き合いしなければならないというルールがあるようで、必ず乾杯してタシデレ(チベット語のあいさつ)と言い合う。
本来泊まるはずだった離れが電気状況が良くないため、家族と同じ母屋へ移ることにする。太い木のかんぬきでドアを施錠する、昔ながらのチベットの住居だ。ここは同じチベット圏でも多少湿度があり、人間に少し優しい環境だ。宿の目の前にも大きな石積みの塔:古石碉楼があり、満天の星空を背景にすっくと静かに立っている。
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