インド:シッキム王国への旅 4.ダージリンからシッキムへ
紅茶の里ダージリン2日目の朝。寝ぼけまなこの宿の子供にカギを開けてもらって、5時に外へ散歩に出る。夜明け前にもかかわらず歩いている人をちらほら見かける。マニ車が設置されている一角(Khong Lop Choi Sumと書かれている)があり、みなそこにチベット式の額をつけるやり方で祈りを捧げていく。携帯電話で話し中の男性も、通話を一時中断してお祈りしてからまた話し出す。
あまり事前準備をせずに来たので全く予備知識がなかったのだが、ここは1975年までインドではなくれっきとした王国、シッキム王国として独立していたという。人種構成から言っても親チベット国だったのだろう、ヒンズー主体のインド本土と比べると信仰の違いが見てとれる。
日の出とともにチョーラスター広場には人が集まりだす。バドミントンをする少年たち、ほうきで掃き掃除をする女性たち、ジョギングする人々、腹筋を鍛える男性。インド本土で頻繁に目にする物乞いの姿を一度も見かけない。切羽詰まった感じがこの町には皆無で、どこか満ち足りているような雰囲気がある。
今朝の最低気温はマイナス13度だったらしいが、それほど厳しい寒さには感じられなかった。朝日に染まったカンチェンジュンガが見事である。
宿の近くのスイーツ屋で朝食。向かいの席に座るチベット系の人(民主党の枝野幸男議員によく似ている)が食べているカレーとチャパティが美味そうで自分もそれを頼んだ。おかわりしようとするとその人がおごってくれた。チャイのおかわりをもらおうと店の主人にカップを差し出す時、うっかり左手で渡そうとしてお互いギクッとする。ヒンズー教では左手は不浄の手なので、食器などは右手で渡さなければならない。42ルピー。高いのか安いのかよくわからない。
ゲストハウスに戻ると相変わらず宿の子供たちは廊下でじゃれあっている。両替屋で手持ちの現金をインドルピーに換金。日本の円はGoodと歓迎される。通りにある店でショールを買う。土産としてあげた人の評価では非常に良いものだったらしいが500ルピー程度で購入できた。店先では老人が新聞に載っている数独を解いている。貴金属店でターコイズ(トルコ石)を物色するが色落ちしているものが多く、代わりにマラカイトを購入。お前は石の価値を知っているだろうと、値切りは不発に終わった。
時計台近くにあるナスムルズ・ティー・ルーム(Nathmull’s Tea Room)で紅茶を購入。ダージリンへ行って紅茶をお土産に買って帰らなかったら何を言われるかわからない。100gを最小単位として、ランクごとに茶葉が並べられており良心的な店であった。最高級で100g600ルピー、値段は香りで決まるそうだが正直なところ違いはわからなかった。
午後になり宿を引き払い、いよいよシッキム州へ向かうことにする。ここダージリンは西ベンガル州だが、此処から先は入域許可証がないと立ち入れない地域だ。ペリン(Pelling)、古い名前だとペマヤンツェ(Pemayangtse)という、かつてシッキム王宮があった場所を目指す。車を探すがペリンまでだと5時間かかるとのことで、本日のところは途中のジョレタン(Jorethang)という町まで公営タクシーで向かうことにする。
ドライバーは魔裟斗似のイケメンで残念ながら英語が話せないためほとんど会話は出来なかった。途中でチャイをごちそうになる。すれちがえないような細い道や急カーブ、アップダウンを延々と繰り返すような悪路が続く。ようやく西ベンガル州とシッキム州を隔てる橋を渡ると、チェックポストがあり軍による許可証などの確認がある。再び悪路に突入し谷を下った所でようやく谷間にはりつくようなジョレタンの集落が見えてきた。
早速ホテルの客引きが寄ってきたが英語が全く話せない。そうこうするうちにどんどん人だかりになり、ドライバーも口添えしてくれてD-Zongriホテル(1泊250ルピー、バストイレ共同)に落ち着く。
山々に囲まれた町で、町への入り口は大きな橋になっており、軍と警察が常に橋の両側で見張っている。山あいを川がゆったりとうねって流れている。川向うには小屋を建てて暮らしている家族がおり、色とりどりの洗濯物の間を子供たちが走り回っている。ダージリンと比べ気温が明らかに高い。
町と行っても小さな集落だが店が何軒もあり、特に薬屋と服の仕立屋、床屋が多い。乾燥のせいか唇がガサガサで、インド製のリップクリームを買う。
シッキムに入るともっとチベット色が濃くなるかと思ったが、人々の風貌は意外にもインド色が強い。どの店も観光客慣れしていない(ここは通常観光客が寄る町ではないと思う)ためか愛想はない。入域制限区域という事であまり他地域の人間が移住してくると事がなかった町なのかもしれないと思う。
ホテルの地下にある食堂で夕食。ここ以外に食事にできるところが見つからなかった。チキンチョウメンとチャイが美味だった。何ともアットホームな家族経営的なホテルで、この時間食堂にほぼ全員が集まっているようだ。人馴れした飼い犬が食堂内を駆けまわり、12歳ぐらいの少年が犬をからかってはこちらを見てニヤリとする。他に宿泊客は欧米人夫婦1組のみ。Palone8という地元のビールを飲むが強烈に甘い。
少年にお休みと言って食堂を出る。日本と違い、本当に真っ黒な夜空である。星がきれいに見えると思ったら、山の稜線に点々と続く家々の灯りだった。山あいの町に来たと実感させられる。どんなに奥地へ行ってもその場所での人々の暮らしが日々営まれているのを目にするたび、どこか優しい気持ちになる。
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