長い旅の始まり
いよいよ世界一周の長い旅への出発日。
最初の目的地(経由地)は台湾。
このあとフィリピンで1か月英語学校に入り、1日8時間以上ひたすら英語の特訓を行うのだが、スケジュールの都合上、台湾にほんの短期間だけ上陸してみることにした。
台湾は国民性、料理など総じて「マイルドな中国」のイメージがある。
このところ中国本土からの観光客が台湾に大挙して訪れるようになり、台湾人自身も彼らと自分たちを比べて「自分たちと中国本土の人間は違う」と感じるようになったとか。
早朝出発するも、成田へ向かう途中都内の通勤ラッシュに巻き込まれる。こちらの大きい荷物に舌打ちをする男性に出くわすなど、どこか殺伐とした雰囲気の中での出立となった。
台湾への航空便は格安航空会社(LCC)のスクート。タイの会社で台湾まで数千円台からという低価格で、LCCの普及によって大手航空会社のマイレージの意味がなくなりつつあるように思える。もちろん予約はしていたもののチェックインカウンターで満席と言われ、良い予感と悪い予感の両方が去来した。今回は良い予感が的中し、ビジネスクラスにアップグレードしてもらえた。LCCでのビジネスクラスには魅力を感じないのか、ビジネス席はガラガラで日本人は皆無、そこそこ裕福そうなタイや香港の乗客が多かった。
ビジネスクラスと言ってもそれほど豪華なわけではない。
食事も簡素なものだがもちろん何の文句もない。
相変わらずスチュワーデスの英語が聞き取れない。飛行機の騒音の中、人によってかなりなまりのある早口の英語に対してどうしても聞き返してしまう。果たしてフィリピンでの1ヶ月でこれが克服できるようになるかどうか。
出発直前になってシステムトラブルということで機内でひたすら待機。前回ヒマラヤトレッキングに向かった際も出発が6時間遅れだったことを思い出し、焦っても仕方ないと眠りにつく。幸い1時間半で修理完了しいざ出発。
出発前はいつも不安に思うことが多いのだが、いざ飛行機が滑走路を猛然と走り出すと腹の底からアドレナリンのようなものが湧き上がってくるのを感じる。
4時間ほどのフライトで台湾:桃園国際空港に到着。すでに日本とは時差1時間の地である。気温は日本と変わらない気がするが、一歩外に出ると湿度というか熱気というかそういったものが一気に押し寄せてくる。
以前旅行した日本最西端の与那国島から台湾までは直線距離でわずか100㎞強で、与那国島から一番近い陸地が台湾である。そんな地理的な近さもあって与那国島は台湾の影響を色濃く感じさせる土地であった。地図上で見ると、石垣島から日本最西端の与那国島までの八重山の島々よりも台北の方が北に位置しているのが何とも意外な感じである。
空港内のATMでクレジットカードでのキャッシングによって現地通貨を当座必要な額だけ下ろす。これまではデビットカードばかりでキャッシング利用は初めての経験だ。以前デビットカードがATMに飲み込まれて出てこなくなり大いに焦った経験があったので、今回もその点だけは気になったがスムーズにいってひと安心。
バスで台北駅周辺へ向かうことにして、チケット90元を購入。バスの車窓から外を眺めながら、取りとめのないことを次から次へと考える。これもひとり旅の大事な要素の一つだと思う。
当然ながら街中は漢字一色なのだが、中国の簡体漢字と比べ台湾で使用される繁体漢字はわれわれ日本人には理解しやすい。同じ漢字でも中国本土と日本では相当に異なるので、中国本土で予想以上に筆談が通じなかった経験がある。
道路にはとにかく原付バイクが多い。自動車の2倍はの台数は走っているだろう。渋滞の中、車列をぬってバイクが猛スピードですり抜けていくのを、他人事ながらひやひやしながら見ている。
金曜夕方ということで渋滞にも巻き込まれ、空港から台北中央駅まで2時間もかかってしまった。泊まるところも特に決めていなかったのですっかり日が落ちて暗くなった駅周辺で宿探しである。駅北側の問屋街だという太原路という通りで蘭庭商務旅店という新しいホテルに決める。ふだんならこんな立派な宿には止まらないが、旅の初日の景気づけと、日本は震災時に台湾に借りがあるという個人的な気持ちから、あえて奮発した(と言っても結局値段交渉はしてしまっているのだが)。台湾の高雄、台中など他地域からの観光客がほとんどのようである。
この1日は結局ほとんど移動だけで終わってしまった。見ようによってはムダな1日と言えるのだが、これも大事な旅の一要素なのだと自分に言い聞かせる。
夕食を食べようと街中を歩いてみる。金曜の夜ということで夜店がにぎやかな一角があった。なんとなく一昔前の日本の夜店のようである。
そんな中の一店で遅い夕食をとる。10代であろう女の子たちだけで切り盛りされている店である。こちらの風貌が日本人に見えないのだろう、台湾語でまくしたてられる。何とかお互いのつたない英語で意思を伝えて注文する。
ニンニクのきいた青菜が美味かった。自分はいま息が臭いだろうなと思っていると、隣の席のカップルがお互いの息を吹きかけあって笑っている。気付いていないだけでたぶん店内は猛烈なニンニク臭だったはずだ。
予想していたことだが、滞在初日にして台湾が気に入った。日本人もここなら十分快適に暮らせる、住むことができるとも思う。セブンイレブン、ファミリーマート(「全家」と表記する)、ユニクロ、スタバなど日本でおなじみのものはそこら中で見かけるし、やはり親日国であるということを何気ないところで感じる。Wifiが日本よりはるかに普及していてネット利用にそれほど困らないのも大きい。
治安も非常に良いと感じる。ほかの国では空港を一歩出ると気合いを入れないといつ騙されるかしれないと思うことが多いのだが、ここではそのようなストレスを感じることがほとんどない。日本人は本当に滞在を楽しめる国ではないだろうか。
最初の国の最初の1日を、良い印象を持って終われたことは幸先が良かった。明日以降もこうであってほしいと思いながら床につく。
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