アンコールワットからアユタヤへの旅行記 4. バンテアイスレイ
シェムリアップ市街から車で1時間ほどのバンテアイ・スレイ(Banteay Srei)へ向かう。アンコールワットなどよりも古い寺院で彫刻が素晴らしいとのこと。昨日まではトゥクトゥク(座席付きバイク)だったが、今日は車で向かう。
プレ・ループ
途中、プレループ(Pre Rup)という遺跡に立ち寄る。急な階段を登った上に3つの塔が立っており、これまでには見なかった造りである。
これ以降もバンテアイスレイまでの道中でいくつも目を引く遺跡があったのだが、ガイドのHanaいわく「お前がこれから見に行くところはこんなもんじゃないからな」。いやが上にも期待が高まる。
バンテアイ・スレイ
思ったより規模が小さいなというのが第一印象。外で待っているから好きなだけ見て来いと言われて中に入ると、彫刻の素晴らしさに圧倒される。
精緻極まる彫刻がこれでもかと刻まれ、その執念が少し怖いような気さえした。ここまで細かく、多様なモチーフや奇怪なイメージ、執拗な反復を1000年前に行わせたものは何だったのかと思わざるを得ない。音楽でも、あるいは読経でも、単純なパターンを延々繰り返すことで呪術的な雰囲気に導かれることがある。ここに人が集い、この彫刻の前で儀式が行われ、呪術的空間となった時のことを空想する。見ていると何度も縄文時代の土器を連想してしまった。
小説家のアンドレ・マルローがかつてこの女体のレリーフを盗んで逮捕されたそうだが、ヨーロッパ人を狂わせる何かが宿っているのかもしれない。
彫刻には神や人間の姿もたくさん描かれている。どれも本当に生き生きとしていて当時の造形技術のレベルの高さを思い知らされる。
狭い敷地に団体客が押しかけ大混雑である。ただ、ツアーの場合時間が決められているので少し待てば退散してくれる。ここを20分かそこらで通りすぎてしまうのはあまりにもったいない。
予想以上に長居したようでガイドは待ちくたびれた様子。昼食をとるとまたスコールで道路があっという間に川のようになってしまう。
バンテアイ・サムレ
帰り道にバンテアイサムレ(Banteay Samre)へ立ち寄る。先ほどまでの喧騒が嘘のように静かで、ここに来る人は多くないらしい。昼寝している人もいたりして、遺跡で静かに過ごしたい人には絶好の場所だ。
ここも規模は小さいが重厚な造りである。鳥の声だけが聞こえる空間の中、今回の旅で一番くつろいだ時間だったかもしれない。
タ・ケウ
タケウ(Ta Kev)の急な階段を登って上へあがる。よくぞこの大きな石を積み上げたものだと感心する。バンテアイ・スレイともども、ここまでの仕事をさせる信仰の力に感じ入る。他の遺跡と違って直線的な造りが印象的で、少しだけキュビズムの絵を連想させられた。
バイヨン
3日続きであきれられるが再々度バイヨン(Bayon)に立ち寄ってもらった。ここも忘れられない場所になった。ひとつの塔に4つの顔が東西南北を向いて刻まれ、それぞれ憐れみ・慈悲・情け・落ち着きを表すらしい。
プノン・バケン
最後に夕陽鑑賞スポットとして有名なプノンバケン(Phnom Bakheng)へ。ここからは歩いて帰れるだろうとガイドのHanaには引き上げてもらった。小高い丘の上まで坂道を20分ほどは登らなければならないので、それなりの靴でなければ苦労するだろう。歩くのが面倒な人はゾウの背中に乗って上まで登っていたが、頂上まで行ってから今日の営業時間はこれで終わりと言われ憤慨していた。
あいにくの曇り空で夕陽は見えなかったが、ここはアンコールワットを上から見下ろすことができる絶好の場所なので、天候にかかわらずおすすめである。ここから見ると巨大遺跡が広大なジャングルの真っただ中に屹立していることがわかる。
雨季のこの時期でも結構な人出だったので、ツアー客が集中する乾季なら大混雑になっていたかもしれない。夕陽を撮影しようとみんな我れ先にと殺到する場面が思い浮かんでしまう。日没の時間帯を避けて午前から午後、日の高いうちに訪れても十分に来る価値がある。
クメールキッチン
夕食はパブストリートを歩いてみて良さそうだったクメールキッチン(Khmer Kitchen)へ。遅い時間まで観光客でいっぱいでありその意味では安全である。地元のアンコールビールを飲み、まわりの喧騒を楽しんだ。
名残惜しい事この上ないがこれでアンコール遺跡とはお別れである。ガイドの「日本人はなぜそんなにせわしないんだ」という言葉が耳に痛い。もっと時間があれば、と後ろ髪を引かれる思いがする。明日の朝、隣国タイのアユタヤ遺跡に向かう。
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